現在、東京大学工学系研究科の博士課程に在籍し、1950年代~1960年代アメリカにおける都市環境計画の歴史研究をしています。Ian McHargによって出版された『Design with Nature(1969年)』はランドスケープを学ぶ実務者、研究者、学生にとってのバイブルになっていますが、ざっくり言うと、この書籍の源流を辿ろうというのが私の研究テーマです。
1960年代以降の都市環境計画の基礎は、『Design with Nature』に示された自然環境分析に基づいている、と言っても過言ではありません。ランドスケープ分野だけでなく、都市計画や建築分野でも、この計画手法を知っている人は多くいるでしょう。大気汚染、水質汚濁、騒音などの当時の地域公害問題を解決する方法として流布したと、この計画は一般的に説明されています。
ゆえに、環境問題に特化すると思われがちですが、環境問題は社会問題と隣り合わせで引き起こされています。地域公害問題が顕著になった1950年代のアメリカでは、公害の人体への影響のみならず、汚染エリアが貧困層の住まう地域に偏るなど、地域やクラスの格差も浮彫になっていました。環境問題は、社会や経済の側面からみた問題と切り離せない実態があります。
今日のSDGs(Sustainable Development Goals)でも謳われているよう、現在の環境問題は社会や経済と切り離せません。1950年代や60年代に形成された計画論であれ、当時の社会問題とパラレルで環境問題への解決策が講じられたと考えられるのではないでしょうか。言い換えると、SDGsの考え方の源流はすでにこのときに萌芽していたと言えるのかもしれません。環境の一面からのみ語られてきた、古典的なランドスケープ計画をこのような視点で読み解く研究をやっています。
博士研究の内容は、非常にマニアックな世界なので、ここで詳細は語らずに(十分マニアックな導入でしたが・・・)、随時研究成果としてオープンになり次第、ご紹介したいと思います。とかく、実務と並行で論文もがんばりたいと思います。